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November 22
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2007 
February 05

前書き

さて、南国の話に突入ですね。前回は失礼しました。あの話は急いでしまっていて展開が速すぎて、なんじゃこりゃあああああああ!!とか思った人もいるのではないでしょうか。と言うかもう突っ込んでいる人はいるのかな?文章の始めが『さて』という、話の切換えを表しているのにその前に何にも書いていないのですよ。これに気付かない人。マダマダダネ!

 さあ、気になるのはやはり、琥露奈の安否。そして、南のアタマは誰なのか?っていうか、前回の奴らでてくんの?って言う意見のありましたねぇ。

・・・ねえよ!

 んん~?誰だか知らないけど突っ込み有難う。そうです!つまりは一人十色!一人でも十の個性が隠れているって事!いいよねえ、文章。

 ああっ、話からそれてる!スイマセン。と言っても要点は言ったし、ここで僕の体験を。

 英語の予習をしている時に、予習プリントを切ってノートに貼りますね。その時、誤ってプリントを破ってしまいまして。そしたら、なんと偶然に『women』が『omen』になってしまいまして、すなわち、ウィメンがオーメンに変わってしまったわけです。

・・・・・・・・・・・・笑え!

 動ける者は少なかった。とは言っても、五百人ほどの精鋭が集まって返って良かったのかもしれない。大勢で出陣した彼、琥露奈がそうだったように、大勢で行けば、何か起こる気がしてならない。動けないのはアイツの毒のせいだが、実際には集まった人達は、もう何も感じないらしい。(えんじゅ)とかいったか?と言うか、『観察者』。彼等はこうなる事を想定していたのだろう。確かな腕を持ったものだけが彼女に率いられる権利がある。そう暗に示している。

「いくぞ・・・」

 修羅の声は少しくぐもっていた。よほどに心配なのだろう。あんなに嫌がっていたのに、かわいらしい~。

 ゴホンッ、修羅は背に三十キログラムはあろうか大型の太刀〝快刀乱魔〟を、そして、両隣には、焔と朧火。念の為にと葵は城にいる。

 そして、少数の(つわもの)は凄然と動き出した。

 

「さて、此方も動かないと駄目なようです。よく今まで隠れていましたね。『観察者』リル・シュトローゼム。まさか其処に居たとはね。琥露奈さんもなかなかやります。行きますよ。槐、石蕗。・・・アイツはオレが殺す(、、、、、)。分かっているな。あいつは・・・名前も存在も子の世界にはあってはならない」

 事態は思いの他危険だった。

「君には勝てない。琥露奈・・・死ぬな・・・」

 

「はあ、はあ。はは、やばいかも・・・。で?君はだれかな。もしかして、あんたが大将かな」

 其処に居たのは、真っ白な肌で、白髪、そして白い服。それを着こなしていたのは、当に人型。人の形をしているなにかだった。

「あ~あ、後にも引けないし、前にはあんたか。ご無礼をお許しください。我は琥露奈!いざ!」

 琥露奈は、怪我をしていても普通の人にはとうてい不可能な動きで彼女に斬りかかった。

 しかし、決着はあっさりしたものだった。

「はは・・・それは・・・ない・・・だろ・・・。ごめんな・・・あしゅ・・ら」

 近付く前に彼は見えない何かに切り刻まれた。ぬるりと生暖かい液体が流れていく。そして、意識もまた、遠ざかっていった。

 

「ん?いま・・・」

 修羅が南の中央辺りに来たのがその時だった。

「いや。気のせいだ」

「姫!前を!」

 其処には琥露奈の部隊と敵兵。然し、やられているのは、一方的に琥露奈の兵。よく見ると、敵兵の体はぼろぼろで普通なら動けない。

「なんだあれは!・・・いや、アレは死んでいる。誰かが動かしている」

 確かにそのような感じだった。だから、下で死んでいるのはほとんどが焼けているものや、足がないものが多い。

「足を狙え!動けなくして進め!」

 修羅が先駆けとして、進撃。彼女の一撃は鬼神のごとくに振られ、足を落とすまでも無く。消し飛んだ。後ろには精鋭が続く。琥露奈の部隊のおかげで、相手が分かっていて、戦闘には問題ない。然し、

「琥露奈・・・」

 彼女お思いは、空しくも打ち砕かれる。

 それは、傷ついた琥露奈の付き人だった。

「救護を!城に連れて行ってやれ」

「待ってください!」

 彼は、肺をやられたらしく、血を吐いている。それにもかかわらずに、訴えるような大声を上げた。

「大将が・・・亡くなりました・・・」

 修羅の髪が逆立った。三人の護衛は知っている。その雰囲気は前に一度だけ、彼女が見せたもの。しかし、よりいっそう禍々しい。

「そうか・・・おい、兵を城に戻らせろ。俺が行く。」

 その口調はもはや彼女のものではない。それは、

「我ハ阿修羅!鬼神阿修羅也!」

「ウセロ!城ニモドレ!」

 その一言で、皆が気圧された。心配しながらも兵は戻っていく。

「我々はお供します」

 しかし、三人は残った。

「鬼神に睨まれたとしても、行動が出来なくなっても、我々は修羅を守る。必要がなくとも、この身が犠牲になろうとも!」

 阿修羅は何も言わない。一人で敵地に入っていく。真っ直ぐと、敵兵を蹴散らしながら。其れの通った後には何も残らない。残るは、塵と人間だったもの。まるで、其処には何も居なかったというような彼女の姿は、鬼神に他ならない。

 然し、其の背には、とてつもない悲しみが満ち溢れていた。そして、憎悪、復讐、更には破滅をも導いてしまいそうだ。

 阿修羅は、琥露奈を見つけた・・・。其の時は、彼女は修羅に戻っていた。今は、唯泣きじゃくる子供である。

「琥露奈、琥露奈っ、琥露奈ぁああぁああぁぁ・・・」

 三人には彼女を慰める事の出来ない。其の悲しさは彼女しか知る事が出来ない。

「・・・コロス・・・」

 再び阿修羅になる。そして、大太刀で風を薙いだ。鎌鼬と言う現象だろう。其の先には、女が立っていた。

真っ白な肌で、白髪、そして白い服。然し、其れは人の形をした何か。

 鎌鼬は其れに向かっていった(ようだ)が、直前で何かにぶつかった。

「貴様か・・・俺の、俺の夫を殺ったのは。貴様を殺す。覚悟しろ!」

 先程よりも安定している。そして、其れは始めて嗤った。

「あは、あははははははは!君達にボクが倒せるわけないよ。そいつみたいに死んじゃえ!」

 無邪気で、其れで居て狂っている。

「其処の三人、下がってろ。俺が殺る」

 三人は言われた通りにする。其れでなくても、感でアレには勝てないと分かっていた。決意があっても次元の違う強さの者に勝てるはずもなく。此処は引くのが自身にとっても阿修羅にとっても最善である。

 そして、鬼神と悪魔の死闘が始まった。

 

「御伽。もう始まって、あっ!」

 彼女を殺す為に準備をしていたのは、『観察者』である。槐はリルの動きを見ていた。しかし、

「ジャミングされた!ボクら、これ解除しないと、中は入れないよ~」

「仕方ないでしょう。出発しますよ!」

 返事はない。緊迫した雰囲気が彼等を包んでいた。

「あはははは!しんじゃえ~。私は月の精(ルナ)

 彼女の周りから繰り出されるのは無数の光の斬撃。阿修羅は其れを太刀で全て薙いで彼女に切りかかる。しかし、簡単にはいかないようだ。

「うふふふふ。私は火の精(サラマンダー)

 突如、阿修羅の目の前で爆発が起こった。太刀だけでは防ぎきれない。

「くっ、小癪な」

 彼女は、更に追い討ちをかける。

「私は水の精(ウンディーネ)。従えるのは、寒獄の氷」

 阿修羅の周りに凍て付く氷槍が構成されていく。当に全包囲攻撃。そして、そのまま阿修羅に向かって、飛んでいく。

「ふん。くだらんな」

 そう吐き捨てて、阿修羅は全方位から来る氷を驚くべき太刀筋で、切り捨てた。しかし、彼女の攻撃は止まない。

「私は風の精(シルフ)。従えるのは、竜捲く刃風。私は土の精(ノーム)。従えるのは、大地の怒り。(カルマ)を終え、其の力を解き放て!」

(どんな事が起こるのかは、ご想像にお任せします)

「小賢しい!貴様を斬ればいい事だろう!」

 阿修羅はそれらを打ち消して彼女の目の前に行き、彼女を斬った。

「!?なぜ?バリアが消え・・・た」

 阿修羅は、倒れた彼女に止めを差そうとした。其の時だった。

「お待ちください。修羅姫。いや、阿修羅、でいいのかな。あなたは」

「何故待つ必要がある!こいつは俺の仇だ!」

 感情のまま阿修羅は太刀を振り下ろす。しかし、

「そろそろかな。反魂が始まる」

 修羅が持っていたお守りが光り出した。そして、お守りは光と共に消えていく。修羅(・・)は気配を感じて後ろを振り向いた。すると、

「うっ、ごほっげほっ。何だ?あれ、俺は確か・・・」

「琥露奈ぁ!」

「うごっ!え、いったい・・・は?」

 涙でひどい顔になった修羅がいきなり飛びついてくるので、また逝ってしまいそうだった。・・・嘘。琥露奈は訳が分からないまま取り敢えず修羅を慰める。しかし、しばらく収まりそうもない。

「説明してくれないかな?」

「分かりました」

 御伽は頷いて話し出す。

「あなたとは始めて会いますね。琥露奈さん。私は御伽。『観察者』の一人です。ちなみに、あなたが死ぬ事は分かっていました。普通の人間が、彼女リル・シュトローゼムに勝てる筈がありませんから」

「おい。先に言えよ」

「まあまあ、其のおかげで生き返ることが出来たのですよ。死んで居なければ生き返れませんからねぇ。あぁ、分からないと思うので、軽く流してください。それにしても・・・阿修羅か。コイツに勝つとはな。驚きだ。しかし、とどめは俺が差さなければならない。『還殺者』として」

 御伽はつかつかとリルのところへと歩いていく。そして、

「我は死神(ジョーカー)。故殺すは同胞。裁断の間を駆け下りて。生死の淵を渡り行く・・・。貴様の罪は重い。地獄の闇に苦しみ息絶える事のない永遠を孤独に過ごすがいい」

「待って、やめ・・・」

 漆黒の大鎌が御伽の影に映り。ゆっくりと彼女に近付き、

「嫌だ!うわあああ!」

振り下ろされた。彼女は漆黒に紛れて消えていく。

The Endだ」             終わり

 

後書き

 何か暗い終わり方だね。次回は続きと後日談を予定しています。

 此処で一句

修羅鬼神 悲しき命 背負いたり 

           我が紅の 塵と成りけれ

・・・季語もへったくれもねぇな。でもなんか、かっこいいからまあいいか。また来月お会いしましょう。

 

追伸 

前書きで申し上げた「omen」ですが、「予兆」という意味も在りましたので訂正しておきたいと思います。

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2007 
February 05

「中央が動き出したようだね」

「そうですね~」「そのようです」

 暗室に三人の影。薄暗く光るのは、水晶に映し出された彼ら。

「彼女が来たら、丁重に連れてきてくれる?」

「りょ~か~い」「はい、分かりました」

 君主らしき人物と、その護衛。一人はあからさまにやる気なく、そしてもう一人は厳粛に応えた。

「でも、他の奴らも殺さない程度に扱ってくださいね」

 よほどの自信が見られる言。

「え~」「・・・」

 不気味にも、恐ろしい意味を含む返答。

 彼等は、北の者。諸事情が一切不明で難攻不落。いつからあるのかも不明。昔から、この地を襲う、襲おうと思う人はいない。

「久ぶりの客人だ。どんな話が出来るのか楽しみだよ」

「ねえ~、アレ、使ってもいい?」

「うん、少しだけならね。でも、使いすぎないでよ?」

「あっぶないもんね~」

「彼らの反応が楽しみで御座います」

 二つの影は静かに消える。

 彼女はもう・・・。

 

 

  後書の○○○○

 白き夢の魔物、吾身を喰らいて糧とせん。

 暗き道這い来る者、ソコナシへと導かん。

 夢壊す者、道壊す者、御身を砕きて聖と成す。

我、神因り承りし杖振り翳し、天地を裂かん。

 狭間より出でし者、混沌を以って天を地に堕とし、

破滅への鐘楼を打ち鳴らす。

 ホロビ、木々を砂に変え、海を砂に変え、生をも砂に変える。

 嗚呼、我は何と愚かな事を・・・。

ユルサルルならば、是の身を捧げよう。

 ハメツ、猶も空を砂に変え、雲を砂に変える。

 嗚呼、古の罪は赦されないのか。

 

アア、ソウダトモ。

 

 漆黒の太陽、紅塵を撒き、灼熱の劫火で地を灰に、

 歎きの銀月、凍て付く風を纏い、寒獄の焔を燃やす。

 吾が名は――。

 

 前書き

 さてどこからだったでしょうかねぇ。はは、忘れてしまったよ。

「あの、フザケナイデくれますか?冗談でしょう?」

 えっと、君は?誰だっけ?

「北の者です。ちなみに名前も未だ貰っていません」

 ああ、そういえば・・・。

「あったしのことも忘れているわけじゃないわよねぇ?」

 ああ君は、キャラが明るいからよく覚えているとよ。

「・・・」

 がたいがいいところ以外は、朧火とかぶってますねえ。

 北の者勢揃いって所か?

「速く始めてくれないか?名前も速く付けてくれるとありがたい」

 あー、はいはい、分かりましたよ。ではお楽しみください。

 

 

「・・・何も無い?」

 修羅が見た物は、一面の荒野だった。

「ん?誰かいる。皆に気を付けろと」

 其処には、おかしな服を着た二人がいた。黒衣の神父と現代風の少女(この世界では勿論おかしな格好)がいた。

「全員警戒!」

 焔が叫ぶ。

「名を名乗れ!」

 修羅が怒鳴る。彼等は、無言のまま(少女はにこにこと)近づいてくる。相手は、武器を持っていない。従って、修羅も一人前へと出た。

「気がつよーい子だねぇ」「悪かったわね。こちらの質問に応えろ」

「いいけど。あたしはぁ、槐(えんじゅ)こっちのふつーに無口なのは、石蕗(つわぶき)」

「・・・来てもらう」

 そういって、石蕗と呼ばれた男は、瞬く間に消えてしまった。姫を連れて。あ、そういえば、しゃべったねこの人。

「何処にやった!」

 焔が叫ぶ。槍を構えて、前に出る。

「うちの領主んトコ。おにーさん達は、あたしと遊ぶのだよ?」

「ふざけるな!貴様を倒して進む」

「おー、怖い。でも、全員で来てもいいよ。あたしはつよいんだぞー。」

 キレた焔は、何かを唱え、槍に火焔を宿す。無口な朧火もこの状況は危険と悟り、両手に短刀を持ち、影のように彼女に切りかかった。

「おっとっと。あっぶないなぁ。じゃあいくよ!」

 

 その頃、修羅は暗室に立っていた。

「ここは・・・!?誰だ!」

「おやおや、気の強い方ですね。然し、まずは自分から名乗るものでしょう?といっても、此処に来させたのは僕ですからねぇ、僕から言いましょう。僕は御伽、さて、君は修羅だね?いやぁ、お噂はかねがね聞いております。簡単に言うと、此方に来ないで欲しい。僕は、争いが好きではないのでね」

 泰然と話している御伽と名乗る男は、抑揚のない声で、顔も見えない。

「嫌だ、といったら?」

 御伽は、フッと笑って、

「そんなのは、無理だからこう言っているのですよ。まあ、是でも見てください」

 ぼうっと画面が浮かび上がり、それで彼の顔が見えた。自分と同じかそれ以下の子供。

 画面には何か小さい物が動いていた。しかし、其れが、彼等だとわかるまでに時間はかからなかった。そして、彼等が次々に他をされていくのが見えた。槐と名乗った少女に。

「どうして・・・何かの幻術か?」

「いや、今本当に起こっている事。さて、交渉の続きだ。僕等は中央に仕掛ける気はまったくない。

槐も倒してはいるが怪我らしい傷は負わせていない。と思う。僕等は、この世界には不釣合いな力を持っていてね。というか、この世界の者じゃないんだ。『観察者』と言うんだ。北は僕らが来るまでは領土すら存在していなかった。――そういうことで、諦めてくれないか?条件を飲むなら、いい事を教えよう。断った場合は、如何しようか?そうだね、どうなっても知らないよ?」

「・・・覚悟はあった。仲間を見捨てても進む・・・。然し、何の利益なしに是だけのものと亡くすのは・・・。分かった。条件を飲む」

「ありがとう御座います。では良い事を教えましょう。君の夫が危ないですよ」

「なっっ!」

 修羅の顔は、将に驚愕だった。

「槐、石蕗。移動魔術用意。姫様、御武運を祈ります。今日は楽しかったですよ。あなたに惚れてしまいました。また来て貰えると幸いです。では・・・」

 

 一方、修羅の兵達は、焔、朧火を加え、全て倒されていた。

「何だ・・・あれは」

 槐が持っていた物は、紛れもなく注射器。其れだけならまだしも、彼女は異様な光景を見せていた。

「あはは!あったんないよ~」

と、軽く姫の側近に注射を打ち込んで行った。

「槐特製の麻痺毒なのだ~。ははは~!我に膝まづくのだ~!」

「・・・?ほえ?連絡が・・・。あー、はいはい。わかりましたー」

 なにやら話しているようだ。そして、大柄な男は、兵達を一箇所に集め、女の方は、何かを書き始めた。

「・・・完了」「オッケィ!」

「空間移動、発動」

 

 目の前の景色が変わった。城下。兵もいる。

「姫、御無事でしたか、よかった・・・」

 

「姫、何か箱がありました。御伽より、と書いてありますが、如何しますか?」

「明けてみろ。害は無い」

 修羅は、その箱を開けさせた。中には、更に小さな箱が二つ。お守りらしき物が一つ。そして紙が一枚入っていた。紙には、

「結婚祝いです。受け取ってください。こちらにはそういう習慣が無いみたいですからね『指輪』と言う物です。もう一つはお守りです。南にいくときに必ずもって行って下さい。きっと役に立つでしょう。     御伽」

と、書かれていた。

 信用は出来ないが、今はそんなことを考えている暇は無い。

「動ける者は、南への出陣用意!是より、琥露奈の援護に向かう」

 間に合ってくれ・・・。切実な思いが心に木霊した―。

 

2007 
February 03

「はーはっははああぁ。とどめじゃ」

「・・・・」

「はあっ?何か云ったかのう?」

「・・・さい・・・」

「聞こえんのう?許しでも請うたか?」

 彼女の顔は、

「五月蝿い!」

 将に阿修羅の顔だった。蒼龍はまるで、蛇に睨まれた蛙。一瞬動く事が出来なかった。

「は、はっはっは。其の意気だ」

 彼女はもはや、彼女ではなかった。

「テメェ、いつまで余裕こいてんだ?ふざけてると・・・死ぬぞ」

直後、蒼龍の腕は有るべき所から離れていた。

「ぬうう・・・」

 痛みに悶絶する。然し、彼は、

「ふざけるなあ!殺してやる!」

 残った腕を振り回して襲い掛かって来る。

「我が舞の前に・・・」

彼女は踊りだした。蒼龍の攻撃は当たら無い。然し、躊躇いなく彼の体は切り刻まれていく。重い防具がまるで水の様に、体ごとズタズタになる。

「くそう。何だお前はあぁ!」

「散れ・・・」

 修羅の舞は戦場に真紅の薔薇を咲かせた。身に纏っていた純白の衣は修羅に相応しき真紅へと変わっている。

「ははははは、誰が弱いんだって?」

 彼女の後ろからは歓喜の叫び。前の軍隊は武器を捨て、跪いて居る。

焔が彼女のもとへと行こうとした時、彼女は倒れた。

「姫!」

 彼は彼女を抱き起こした。顔に付いた血を拭くと、可愛らしい少女が眠っていた。

「姫、やりましたね」

 焔は、彼女の耳元で囁くと、

「戦は終わった。撤収する。町へ戻れ。西の者は此処で自害するか、この国に貢献するか選べ。勿論、後者を選んで欲しい。それから・・・・」

「葵、姫様が起きたら綺麗にしてやってくれ」

 葵は、彼女を抱いて、城へと戻っていった。

疑問を抱きながら・・・。この疑問は全員が感じている筈だ。如どうして彼女があんな事を。

「今は様子を見るしかないか・・・」

 焔は深く悩まない様にした。

 

 彼女が起きたのは真夜中。勿論、血塗れのまま。

「ふあぁぁあぁ。むにゃむにゃ。あれ?」

 彼女は自分が血塗れだという事に気付いていない。

「・・・うにゃああぁぁぁぁぁあああ!?」

 絶叫。駆けつけて来る足音。朧火と焔が着いた時には葵が慰めていた。

「あ、二人とももう大丈夫で御座います。だいぶ落ち着きましたから」

「気が付いたら血塗れで、びっくりもするわあ!ああ、びっくりした~」

 三人は、不思議そうな顔をしている。

「覚えて・・・いらっしゃらないのですか?」

 恐る恐る葵が尋ねると、

「何をだ?」

 と無邪気に返答した。

「戦の事で御座います」

 焔が付け足した。

「戦かぁ。覚えておらん。相手の攻撃一発で気を失ってしまうとは、無念。其れより、風呂に入りたい。葵、一緒に入ろう。な。な。」

 其れから葵は、彼女を連れて浴場に向かった。

「姫様は何も覚えていない。然し、自分が城に居るのは分かっている。どういう事だ?勝ったのも覚えていなければ、負けた事も覚えていない筈なのに。彼女の中では、戦に勝った事になっている。朧火。どう考える」

 朧火は、紙に『不知』と書いて彼に見せた。

「そうか、仕方ないか、取り敢えず様子を見よう。何も分からなければ、動きようが無い」

 

「なあ、葵。何が在ったのだ?戦の時に、勝利した事しか覚えていないし、体中が痛いし、見塗れだし・・・」

 葵は何も話さない。葵は自分が見たことを否定しようとしていた。

「怪我の手当てはして置きましたが、血を流したら、傷口が開かないように、また手当てをしますので、痛いかもしれませんが、我慢してください」

「むっ、私はそんなにやわじゃない。この程度の傷痛くも痒くも無いわ。・・・其れより、私のせいで皆に心配を掛けてしまった。すまない。私は、もっと強くなりたい」

「はい、強くなれますよ。まだまだ、若いのですから」

 葵は笑いながら彼女の背中を流してあげた。痛みを我慢している所がまた、可愛らしく、愛らしく、子供らしく・・・。然し、大器が備わっている。そうで無ければ、民はこんなに小さく幼い子供に命をあずける訳が無い。

 皆信じているのだ。彼女の成長を・・・。

「こっ、こらっ!葵、何処を見ておる。痛い。」

「あらあら、痛くも痒くも無かったのではないのですか?」

 そう云うとまた彼女は、我慢し始める。

(私は何時もあなたを見守っております)

「む?何か云ったか?」

 いえ、とだけ応えて、葵は、彼女にお湯をかけた。ふみゃー!?という声が浴場に木霊した。

 

 その後数年は、何処からも攻められる事無く。時は流れていった。

 そして、五年が経った。領土は少しだけたが、それ以外は変わりが無い。東とは休戦している。南北は何かを狙ってか仕掛けてこないが、情報は途絶えている。裏で何か怪しい動きをしているらしいが、未だに素性は分からない。

 

「はあっ!」

 かんかんと木がぶつかり合う音がする。戦っているのは、彼女と葵。早朝早くから稽古をしている。然し、

「てえいっ!」

 彼女の木刀が葵の物を弾き飛ばし、首筋へと向けられる。

「お見事です。修羅姫様」

 もう稽古とは云えない。修羅は青いよりも強く、朧火よりも賢く、焔よりも統率力があった。ただ・・・、

「汗を掻いた。背中を流してくれ」

「はい」

「なあ、葵。如何してお前の髪はそんなに綺麗なのだ?」

「姫様も十分綺麗で御座いますよ」

「そ、そうか?」

「はい」

 修羅は恥ずかしそうに、お湯の中で、ぶくぶくと息を吐いている。

 そう、精神は未だ子供のまま。それ以外はすべて素晴らしい成長を見せているのだが、何故かこうなった訳だが・・・。真相は不明。

「修羅様!」

 大声で彼女を呼んだのは焔。

「何だ?騒々しい。後に出来ないか?」

 いや、其れが・・・、と曖昧に話している。

「なんだ?云ってくれ」

「はい、何か修羅様の客だと申すものが来ております。どう致しますか?」

 彼女は、いったい誰だろう?と少し考えて、「分かった。通しておけ。客間に案内しろ。すぐに行く」

 そう云って、彼女は風呂を出た。

 

 客間には、なんかかっこいいぃ、という小奇麗な青年が大人しく座っていた。

「待たせたな。お前、ここらでは見ない顔だな。率直に云う。誰だ?」

 すると彼は、すっと立ち上がり、

「修羅姫!」

と云って、いきなり姫に抱きついてきた。

「なななななぁあ?」

 修羅は顔を真っ赤にしながらも、抵抗しない。というより、免疫が全く無く。どうすればいいのか分からないのだ。

「修羅姫様!」

 葵が咄嗟に彼を引き剥がす。そして、ずるずると牢の中へ・・・。

「落ち着いたか?」

 と葵が云う。

「ああ、先程はすまなかった。あまりに可愛かったものでつい」

 修羅は、葵の後ろに隠れている。顔は未だ真っ赤だ。

「おおおおおぬしっ。何をするのだ!」

 彼女は、呂律が廻らなく、完全に取り乱している。

「ははは、すまないすまない。そんなに怯えないでくれ。あと、此処から出して欲しいな」

「なななな何を云う!ふ、ふざけるにゃ」

「あっはっは、面白い姫様だ」

「笑う出ない!お前は誰じゃ!」

「ああ、すまない。未だ名乗っていなかったな。俺は、東の長『琥露奈』だ。さて、いきなりだが、俺と結婚してくれ」

 ボンッと彼女の思考回路が焼き切れた。そして、きゅうと其の場に倒れてしまった。

「姫様!大丈夫で御座いますか?」

 葵もおろおろしている。

「あなた、其処で待っていてください。すぐ戻りますから」

「あっ、ちょっと、お~い。行っちゃったよ」

 葵は、修羅を抱きかかえて、もうあんなに遠くへ、そして、琥露奈は其の場に取り残された。ひゅ~、と風が吹いた気がした。

 

「姫?大丈夫ですか?」

「大丈夫ではない!あんなことを言われたのは・・・初めてだ」

 未だ顔が赤い。隣で朧火がいつのまにか煽いでいる。

「姫様。あの男はどう致しますか?」

 焔が問う。

「だっ、だいぶ落ち着いた・・・から、連れてきてくれ。牢は・・・寒いだろう?」

 言葉が明らかに動揺している。三人も、姫がそう云うのなら、という様子で彼を連れ出した。

 琥露奈が修羅の所へ連れてこられた。修羅はそっぽを向いている。頬を紅に染めて。

「おお、修羅!また会えたなー」

と、琥露奈がまた襲い掛かって来る。三人の制止をひらひらとかわして。

 しかし、

「ええい!寄るなあっ!」

 素晴らしい打撃音。彼は数メートルも飛んだ。が、

「えらい歓迎だな」

平気な様子だ。

「お前、琥露奈とか云っていたな。其処の三人をすり抜け、私の攻撃にさえ受身を取ってかわすとは、相当の腕前だな」

 彼女は、思った事を其のまま述べた。つもりだったが、

「じゃあ、惚れ直したって事で、契りを」

 彼にとっては、婚約が成立したのと同じ。

「まっ、待て!心の準備が・・・」

 修羅もその気のようである。しかし、其の瞬間、其の空気が変わった。

「さて、本題に入ろうか。俺は、戦いをしたくない。修羅、お前と同じでな。然し、戦無くしてこの乱世の統一は不可能」

 彼女の顔からも恥じらいは消えている。

「それで、如何したいのだ?此処で戦うのか?私は構わないが」

 修羅は戦闘態勢に入っている。

「違う・・・」

 然し、彼の言葉に其れは崩れた。此処にいる者は皆、不思議に思っている。

「そこでだ。この国と協力しようというわけだ。国の長が来た方が説得力あるだろ?」

 一同は頷き、

「お前の云いたい事は分かった。私も出来るだけ戦は避けたい。協力しよう」

 と云うと、彼はまた一変し、

「じゃあ、結婚しよう。式はいつ行う?今かそうか、分かった。では誓いの証を・・・」

 そう云うと、彼は徐に修羅の頬に口付けをした。

「な、な、な・・・」

 又もや、きゅう、と倒れてしまいそうな彼女を抱きしめ、彼は、三人に云った。

「じゃ、そう云う事で。よろしく」

 何故彼等は姫を助けないのか?と思う人もいるかもしれないが、彼等には其れなりの考えがあるのだろう。其れとも、姫に、呆れているのか。まあ、其れは無いだろう。きっと、余りにいきなりも出来事で、考えが付いていかなかったのだろう。朧火は・・・何かを分かっているようだったが、やはり口に出す事は無かった。

 

「むう?此処は?」

 彼女が気付いたとき、彼女は柔らかいものに包まれていた。其処は彼女の寝室だった。

「おお、やっと起きたか。そんなに驚く事は無いと思うのだが・・・」

 彼女は一瞬動きを止め、そして、城全体に聞こえるような声で叫んだ。

「何でお前が此処に居る?私に何をした?吐け!吐かぬか!」

 目にも止まらぬ速さで其の部屋の隅まで行って、常備の小刀を片手に男に問う。

「何をって、あんなこと?」

 彼女の顔は蒸気が上るほど赤かった。そして、何処からか太刀を取り出して彼に襲い掛かって来る。

「まっ、ちょっ、待て。冗談だ」

 しかし、彼女は完全に我を失っている。

「仕方ない・・・」

と云って彼は、修羅の剣戟を掏りぬけて、またも、彼女に口付けをした。

「ななななななななな・・・」

 やはり、赤くなり紅くなった。そして、力なくその場に座りこんでしまった。

「此れ効くな~」

「お前また」

 彼は抗う力の無い修羅を軽々と持ち、柔らかい布団に寝かせた。

「さて、聞いてくれ。俺は交渉に来たんだ。東の統一について、な」

 彼女のすぐに目の色を変える。

「お前は、この国に統一されるのではなかったのか?交渉とは何の交渉だ?」

 琥露奈は、ゆっくりと口を開いた。

「実は条件があったんだな。・・・其の条件は、修羅・・・お前と結婚する事だ」

「ほう、だからあんなに接近してきたのか」

「まあ、そういうことだ。しかも、七日以内に結ばないと戦になる。あの老い耄れは、俺の結婚を快く思っていないんだ。俺は、戦をしたくない。なあ、もう一度云う。俺と結婚してくれ」

 彼は真剣だった。嘘偽りの無い誠実な顔。彼女はしばらく考えた末、

「焔、朧火、葵!」

と、三人を呼んだ。

「・・・ということだ。お前たちは如何思う?私としては・・・構わない・・・のだが」

 恥ずかしそうに云う修羅。彼女の気持ちを両方から察してか、焔が口に出した。

「戦事にならないのなら、其れが一番でございます。祝言はいつ挙げますか?」

「明日で、よろしく」

 琥露奈は即とうする。もう其処には、先程までの誠実な姿は居なかった。

「なっ!?」

 驚いたが、身動きが出来ない彼女は、辛うじて動く腕でじたばたした。

「分かりました。町の者にも知らせなければ、祝言は昼から、其れまでに支度をしましょう」

「お前もか!葵」

 彼女の叫びは空しく響いていった。

 

 次の日、式は大々的に行われた。

「本当にするのは、こんな大勢の前で」

「仕方ないだろう?こうでもしなければ、老いぼれどもが信じてくれぬ」

「・・・仕方ない・・・か」

 綺麗な花嫁姿の修羅は、浮かない顔をしていた。対する琥露奈は、いつも通り。

「ほら、出るぞ。笑って」

「あ、ああ・・・」

 そして、二人は城を出た。

 途端に湧き上がる衆の歓声。其の中、二人は誓いを交わした。

 遠くで数人の黒装束が、東へ向かっていった。

「まったく。あんなに大勢の前で・・・恥かしい。何であんなに長いのだ!?」

「いいじゃないか。今日から晴れて夫婦だ。仲良くやっていこうな」

「?」

「おいおい、惚けてるな?俺は本気だぜ?こんな綺麗な嫁を持てて幸せだ」

「んな!?見せかけだけじゃ?」

「ちっちっち。俺は本気。領主は貴女でいいから、よろしくな」

 言葉が詰まってしまった彼女に又もや、誓いを交わす。然し彼女は微動だにしない。琥露奈は面白がって頬っぺたをぷにぷにしたり、鼻をつんつんしたりしている。然し彼女は動かない。ショックだったのか、はたまた大感激だったのか。其れは定かでは無きにしも非ず。寧ろ前者である。飽きたのか、琥露奈は彼女を持って城の奥に行った。

 

 次の日、東から使者が来た。どうやら本当に結婚したのか確認に来たらしい。あまりに率直な質問に表情が崩れそうになるのを辛うじて止め、

「不躾な。昨日大々的に発表したであろう。今更そのような事は聞かぬものだ」

 とだけ云った。彼等が帰った後、やはり恥ずかしい様子の修羅であった。

「ふぁあ~。清々しい朝だな。修羅お目覚めの口付けを」

 思い切り何かを何か槌のような物で打つ音がした。琥露奈は其の儘昼まで寝ていた。

「おお、起きたか?寝相が悪いな。あそこから此処まで来るなんて。それにもう昼だ。幾らなんでも寝過ぎではないのか?」

 と、からかったが、

「う~む、昨日からの記憶が無いんだが。修羅、何かしたか?」

「いや。何も」

 感の鋭さは流石と言った所だろうか。危なかったと思いつつ、笑いをこらえるのが必死。

「其れより、南北統一の作戦をたてようか」

 彼は、楽観的に応えて、他の三人と共に城の一室へと向かった。クスッ、という彼女の微笑は彼に届いたのだろうか。

 

 

2007 
February 03

 時は乱世。戦が絶えない国、芦麻。そして、其の国の中心に立っている大都市、羽座見。其処に一人の戦人が居た。彼女が求めていたものは、この乱世の統一。この時代は、皆領土を奪うことが主な目的。然し、彼女は、戦を終わらせる事が目的。演説、説得は無駄。領土を奪い、人々を従わせる事でしか、この世は統一出来ない。彼女はそう考えていた。実際、其れしか方法は無かった。

 僅か十歳で彼女は其れを知った。彼女は賢い子だった。天賦の才。将に其の言葉がぴったりと当て嵌まっていた。だから、彼女は強かった。そして、十二歳で、国の領主になった。遂に、自分の考えを其の国の人々に聞かせる事が出来る様になったのである。

 そして、大勢の前、彼女は云った。

「皆よ聞け。もう敵勢は、我々の国の近くまで来ている。国を、領土を、家族を守りたいか。其れとも、唯死を待つのか。選択する余地は無い。戦を終わらせる為、我が国が頂点と成るのだ。我の為に戦い、我の為に死ね。我はこの戦に終焉を齎す者なり。己を鍛え、武器を持て!死を恐れるな!」

其の大音声は、国全体に聞こえる様な透き通る声だった。全ては彼女に耳を傾けた。演説の後に残る長い静寂。そして、

オオオォオオォォォォォオオ!

大盛況。

 皆が彼女に従った。皆が彼女に命を預けた。

其の時、彼女は十三歳だった。

 

 新しい領主の祝いの為、城下は朝まで賑わっていた。

「はあ、緊張した。ああいうのは慣れていない。焔、お前が次はやってくれ」

 かなり疲れた様子で、二人と共に彼女は寝室に居た。

「駄目で御座いますよ、姫様。私の言葉などには、民は耳を傾けてはくれません。姫様がやらなければ意味が無いのですよ」

 焔と呼ばれた男は、優しく彼女を宥めた。「む~、朧火!お前はどう思うのだ?」

「・・・」

 朧火は何も応えない。

「二人して私を苛めて楽しいか?全く、ひどい家来も居たもんだな」

「・・・」

 朧火は役職にしては、参謀に当たる。策略を練るのがとても巧い。実は彼女よりも賢明なのだ。然し、彼が話している所を見た者は居ない。どうやって、自分の考えを伝えているのかと云うと、

 彼は何処からか、紙を取り出すと、彼女に手渡した。

「何だ?『賛同』って、お前もかぁー!」

其処には、大きな字で、達筆に『賛同』と書かれていた。

「まあまあ、落ち着いて下さい、姫様」

 猫の様に興奮する彼女を焔はにこやかに笑いながら宥め、朧火は唯頷く。

 先程演説をした者とは別人である。

「ふー、ふー。ま、まあ良い。明後日からは軍を立ち上げるぞ。其れまでに用意しておけ」

「分かりました。ではお休みなさい」

「・・・」

 そう云って彼等は寝室から出て行った。

「全く・・・」

 彼女は、そう云うと子供のような寝息を立てた。

 くどい様だが、彼女は十三である。

 

其の朝、国中から集められた兵が其の一帯を取り囲んでいた。

「皆の者、よく集まってくれた。感謝する。さて、知っているか?東西南北の四大の勢力の一つ、西の将軍『蒼龍』が隣国を襲い始めている。此処は国の中心に位置する。攻めてくる事は確実である。然し、我等は強い。其れを討てば、西は我が手にあるも同じ。其処でだ。朧火、あれを出してくれ」

 朧火は、其の国一帯の正確な地図を取り出した。彼女は、『蒼龍』に対する戦法を彼らに伝えた。

「・・・という事だ。頭には入ったな。二度は云わぬ。忘れた者は町に帰るが良い。他は、焔!」

 焔は、はっ、と云って一礼。

「彼についていけ。焔、後は任せる」

 彼女は城の中へと戻り、ふう、と一息を付

く。そして、

「葵!」

 大声で彼女は呼ぶ。

「はい。姫様。御用でしょうか?」

 葵はあまり出て来ないが、彼女の護衛という大事な仕事を担っている。焔と朧火は戦の時は彼女と一緒には居ないが、葵は常に彼女の近くに待機又は戦っている。

「稽古に就けてくれ」

葵の仕事は、多分さまざまな役職の中で最も重い任務である。だから、葵は、彼女よりも幼い時から訓練を受けてきた。主人に尽くす為に。

「葵、今日は何時もより動きが悪い。また休んでいないな?私を守る事は使命だから、私にどうこう云う問題ではないと思うのだが。少しは自分の心配もしてくれ・・・」

「・・・はい」

 葵は彼女の優しさに何時も困った表情をする。過去の出来事のせいだろうが、彼女にはどうする事も出来ない。

「今日は終わりにする。少し寝る。葵・・・。

近くに・・・居てくれないか?」

 彼女はまだまだ幼い。子供なのだ。彼女は恥ずかしそうに云うと、葵を連れて寝室に行った。

「なあ、葵・・・何でもない・・・」

 寝てしまった。何とも無防備な寝顔。葵は其の時だけ笑っている。彼女は知らず知らずに葵を癒し、疲れを取っている。

「葵は姫様と居るだけで幸せで御座います」

むにゃむにゃと、寝ている彼女の隣で葵は彼女が起きるまでずっと、顔所の顔を見つめていた。疲れなど忘れて。

 

 羽座見の近くの村。其処で西の将軍『蒼龍』もまた、作戦を立てていた。

「中心に或るのに、何故今まで誰も狙わなかったのじゃ。不思議よのう?まあ良い。あそこを落とせば、今まで以上に戦い易くなると言うものよ。出陣は明日じゃ。皆の者用意せよ!」

 西から選抜された軍隊が大声を上げた。彼等の意気はもう収まる事は無い。

 

早朝、彼女は国の外に居た。そして其の周りを大勢の兵が囲んでいる。

 向こうにも同じような隊形が組まれている。

「我は西を納めし。大将『蒼龍』也。この領地は我が貰い受ける」

 そう云って、其の軍隊は、前進してきた。

「待て!」

 戦場を切り裂くような声に全ての人が動きを止めた。云ったのは、羽座見の姫。

「此処に提案する。我は『一騎討ち』を望む」

 無謀な言葉。是で止まる筈は無い。然し、彼女は無益な事は避けたかった。甘い考え。然し、人々は彼女の気持ちも分かっていた。

 『蒼龍』は、

「止まれぇい!止まるのじゃ!」

 彼の一言に、西の軍は前進を止めた。

「ふぉっふぉっふぉ。おぬし、面白い奴じゃ。

さて、一騎討ちとな?女が我に勝てるものか。よかろう。相手をしてやる」

 そう云うと、彼は一人、前に出てきた。彼女もまた、彼の所へと出て行った。

「条件は厳しいぞ?我が勝ったら、お前達の領地をすべて頂く。其れでも良いか?」

 彼女は最後の確認をした。見守る家来にも緊張が伝わってくる。

「ふん。割に合わないのではないかの?まあ良い。おぬしが我に勝てるはずも無いのじゃからのー」

 彼は、余裕の笑みを浮かべている。

「ふざけているのも今のうちだな。見かけだけの強さではないのか?」

 お互いの心理合戦は始まっている。そして、高い金属音と共に戦いは始まった。

「ふははははは!いやはや。お強いですなぁ。」

 蒼龍はまだ何かをほざいている。

「弱い弱い。なんと弱い。甘い考えが命取りであったのう?」

彼女は必死。余裕などある筈も無い。初めてなのだ。死と向き合わせの戦いは。

「力無き 姫君の死を とくと見む」

 そして、彼の武器が彼女に直撃した。

「うわあぁっ!!くっ、ううぅ」

 助けに来る者は居ない。一騎討ちと云う名の決闘。其れを邪魔してはいけない。彼女が決めた事。助けたくても其れが出来ない。

 味方の心配が頂点に立った時だった。

彼女の様子が変化した。
2007 
February 03

とある文芸部の作品を公開していきます。

まだまだ拙いですが、感想や批評を頂けたら幸いです。

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