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2007 
February 03

 時は乱世。戦が絶えない国、芦麻。そして、其の国の中心に立っている大都市、羽座見。其処に一人の戦人が居た。彼女が求めていたものは、この乱世の統一。この時代は、皆領土を奪うことが主な目的。然し、彼女は、戦を終わらせる事が目的。演説、説得は無駄。領土を奪い、人々を従わせる事でしか、この世は統一出来ない。彼女はそう考えていた。実際、其れしか方法は無かった。

 僅か十歳で彼女は其れを知った。彼女は賢い子だった。天賦の才。将に其の言葉がぴったりと当て嵌まっていた。だから、彼女は強かった。そして、十二歳で、国の領主になった。遂に、自分の考えを其の国の人々に聞かせる事が出来る様になったのである。

 そして、大勢の前、彼女は云った。

「皆よ聞け。もう敵勢は、我々の国の近くまで来ている。国を、領土を、家族を守りたいか。其れとも、唯死を待つのか。選択する余地は無い。戦を終わらせる為、我が国が頂点と成るのだ。我の為に戦い、我の為に死ね。我はこの戦に終焉を齎す者なり。己を鍛え、武器を持て!死を恐れるな!」

其の大音声は、国全体に聞こえる様な透き通る声だった。全ては彼女に耳を傾けた。演説の後に残る長い静寂。そして、

オオオォオオォォォォォオオ!

大盛況。

 皆が彼女に従った。皆が彼女に命を預けた。

其の時、彼女は十三歳だった。

 

 新しい領主の祝いの為、城下は朝まで賑わっていた。

「はあ、緊張した。ああいうのは慣れていない。焔、お前が次はやってくれ」

 かなり疲れた様子で、二人と共に彼女は寝室に居た。

「駄目で御座いますよ、姫様。私の言葉などには、民は耳を傾けてはくれません。姫様がやらなければ意味が無いのですよ」

 焔と呼ばれた男は、優しく彼女を宥めた。「む~、朧火!お前はどう思うのだ?」

「・・・」

 朧火は何も応えない。

「二人して私を苛めて楽しいか?全く、ひどい家来も居たもんだな」

「・・・」

 朧火は役職にしては、参謀に当たる。策略を練るのがとても巧い。実は彼女よりも賢明なのだ。然し、彼が話している所を見た者は居ない。どうやって、自分の考えを伝えているのかと云うと、

 彼は何処からか、紙を取り出すと、彼女に手渡した。

「何だ?『賛同』って、お前もかぁー!」

其処には、大きな字で、達筆に『賛同』と書かれていた。

「まあまあ、落ち着いて下さい、姫様」

 猫の様に興奮する彼女を焔はにこやかに笑いながら宥め、朧火は唯頷く。

 先程演説をした者とは別人である。

「ふー、ふー。ま、まあ良い。明後日からは軍を立ち上げるぞ。其れまでに用意しておけ」

「分かりました。ではお休みなさい」

「・・・」

 そう云って彼等は寝室から出て行った。

「全く・・・」

 彼女は、そう云うと子供のような寝息を立てた。

 くどい様だが、彼女は十三である。

 

其の朝、国中から集められた兵が其の一帯を取り囲んでいた。

「皆の者、よく集まってくれた。感謝する。さて、知っているか?東西南北の四大の勢力の一つ、西の将軍『蒼龍』が隣国を襲い始めている。此処は国の中心に位置する。攻めてくる事は確実である。然し、我等は強い。其れを討てば、西は我が手にあるも同じ。其処でだ。朧火、あれを出してくれ」

 朧火は、其の国一帯の正確な地図を取り出した。彼女は、『蒼龍』に対する戦法を彼らに伝えた。

「・・・という事だ。頭には入ったな。二度は云わぬ。忘れた者は町に帰るが良い。他は、焔!」

 焔は、はっ、と云って一礼。

「彼についていけ。焔、後は任せる」

 彼女は城の中へと戻り、ふう、と一息を付

く。そして、

「葵!」

 大声で彼女は呼ぶ。

「はい。姫様。御用でしょうか?」

 葵はあまり出て来ないが、彼女の護衛という大事な仕事を担っている。焔と朧火は戦の時は彼女と一緒には居ないが、葵は常に彼女の近くに待機又は戦っている。

「稽古に就けてくれ」

葵の仕事は、多分さまざまな役職の中で最も重い任務である。だから、葵は、彼女よりも幼い時から訓練を受けてきた。主人に尽くす為に。

「葵、今日は何時もより動きが悪い。また休んでいないな?私を守る事は使命だから、私にどうこう云う問題ではないと思うのだが。少しは自分の心配もしてくれ・・・」

「・・・はい」

 葵は彼女の優しさに何時も困った表情をする。過去の出来事のせいだろうが、彼女にはどうする事も出来ない。

「今日は終わりにする。少し寝る。葵・・・。

近くに・・・居てくれないか?」

 彼女はまだまだ幼い。子供なのだ。彼女は恥ずかしそうに云うと、葵を連れて寝室に行った。

「なあ、葵・・・何でもない・・・」

 寝てしまった。何とも無防備な寝顔。葵は其の時だけ笑っている。彼女は知らず知らずに葵を癒し、疲れを取っている。

「葵は姫様と居るだけで幸せで御座います」

むにゃむにゃと、寝ている彼女の隣で葵は彼女が起きるまでずっと、顔所の顔を見つめていた。疲れなど忘れて。

 

 羽座見の近くの村。其処で西の将軍『蒼龍』もまた、作戦を立てていた。

「中心に或るのに、何故今まで誰も狙わなかったのじゃ。不思議よのう?まあ良い。あそこを落とせば、今まで以上に戦い易くなると言うものよ。出陣は明日じゃ。皆の者用意せよ!」

 西から選抜された軍隊が大声を上げた。彼等の意気はもう収まる事は無い。

 

早朝、彼女は国の外に居た。そして其の周りを大勢の兵が囲んでいる。

 向こうにも同じような隊形が組まれている。

「我は西を納めし。大将『蒼龍』也。この領地は我が貰い受ける」

 そう云って、其の軍隊は、前進してきた。

「待て!」

 戦場を切り裂くような声に全ての人が動きを止めた。云ったのは、羽座見の姫。

「此処に提案する。我は『一騎討ち』を望む」

 無謀な言葉。是で止まる筈は無い。然し、彼女は無益な事は避けたかった。甘い考え。然し、人々は彼女の気持ちも分かっていた。

 『蒼龍』は、

「止まれぇい!止まるのじゃ!」

 彼の一言に、西の軍は前進を止めた。

「ふぉっふぉっふぉ。おぬし、面白い奴じゃ。

さて、一騎討ちとな?女が我に勝てるものか。よかろう。相手をしてやる」

 そう云うと、彼は一人、前に出てきた。彼女もまた、彼の所へと出て行った。

「条件は厳しいぞ?我が勝ったら、お前達の領地をすべて頂く。其れでも良いか?」

 彼女は最後の確認をした。見守る家来にも緊張が伝わってくる。

「ふん。割に合わないのではないかの?まあ良い。おぬしが我に勝てるはずも無いのじゃからのー」

 彼は、余裕の笑みを浮かべている。

「ふざけているのも今のうちだな。見かけだけの強さではないのか?」

 お互いの心理合戦は始まっている。そして、高い金属音と共に戦いは始まった。

「ふははははは!いやはや。お強いですなぁ。」

 蒼龍はまだ何かをほざいている。

「弱い弱い。なんと弱い。甘い考えが命取りであったのう?」

彼女は必死。余裕などある筈も無い。初めてなのだ。死と向き合わせの戦いは。

「力無き 姫君の死を とくと見む」

 そして、彼の武器が彼女に直撃した。

「うわあぁっ!!くっ、ううぅ」

 助けに来る者は居ない。一騎討ちと云う名の決闘。其れを邪魔してはいけない。彼女が決めた事。助けたくても其れが出来ない。

 味方の心配が頂点に立った時だった。

彼女の様子が変化した。
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