忍者ブログ

ピノキヲストア

詩・小説展示ブログ

  • « 2024.11. 
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  •  »
2024 
November 22
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2007 
February 03

「はーはっははああぁ。とどめじゃ」

「・・・・」

「はあっ?何か云ったかのう?」

「・・・さい・・・」

「聞こえんのう?許しでも請うたか?」

 彼女の顔は、

「五月蝿い!」

 将に阿修羅の顔だった。蒼龍はまるで、蛇に睨まれた蛙。一瞬動く事が出来なかった。

「は、はっはっは。其の意気だ」

 彼女はもはや、彼女ではなかった。

「テメェ、いつまで余裕こいてんだ?ふざけてると・・・死ぬぞ」

直後、蒼龍の腕は有るべき所から離れていた。

「ぬうう・・・」

 痛みに悶絶する。然し、彼は、

「ふざけるなあ!殺してやる!」

 残った腕を振り回して襲い掛かって来る。

「我が舞の前に・・・」

彼女は踊りだした。蒼龍の攻撃は当たら無い。然し、躊躇いなく彼の体は切り刻まれていく。重い防具がまるで水の様に、体ごとズタズタになる。

「くそう。何だお前はあぁ!」

「散れ・・・」

 修羅の舞は戦場に真紅の薔薇を咲かせた。身に纏っていた純白の衣は修羅に相応しき真紅へと変わっている。

「ははははは、誰が弱いんだって?」

 彼女の後ろからは歓喜の叫び。前の軍隊は武器を捨て、跪いて居る。

焔が彼女のもとへと行こうとした時、彼女は倒れた。

「姫!」

 彼は彼女を抱き起こした。顔に付いた血を拭くと、可愛らしい少女が眠っていた。

「姫、やりましたね」

 焔は、彼女の耳元で囁くと、

「戦は終わった。撤収する。町へ戻れ。西の者は此処で自害するか、この国に貢献するか選べ。勿論、後者を選んで欲しい。それから・・・・」

「葵、姫様が起きたら綺麗にしてやってくれ」

 葵は、彼女を抱いて、城へと戻っていった。

疑問を抱きながら・・・。この疑問は全員が感じている筈だ。如どうして彼女があんな事を。

「今は様子を見るしかないか・・・」

 焔は深く悩まない様にした。

 

 彼女が起きたのは真夜中。勿論、血塗れのまま。

「ふあぁぁあぁ。むにゃむにゃ。あれ?」

 彼女は自分が血塗れだという事に気付いていない。

「・・・うにゃああぁぁぁぁぁあああ!?」

 絶叫。駆けつけて来る足音。朧火と焔が着いた時には葵が慰めていた。

「あ、二人とももう大丈夫で御座います。だいぶ落ち着きましたから」

「気が付いたら血塗れで、びっくりもするわあ!ああ、びっくりした~」

 三人は、不思議そうな顔をしている。

「覚えて・・・いらっしゃらないのですか?」

 恐る恐る葵が尋ねると、

「何をだ?」

 と無邪気に返答した。

「戦の事で御座います」

 焔が付け足した。

「戦かぁ。覚えておらん。相手の攻撃一発で気を失ってしまうとは、無念。其れより、風呂に入りたい。葵、一緒に入ろう。な。な。」

 其れから葵は、彼女を連れて浴場に向かった。

「姫様は何も覚えていない。然し、自分が城に居るのは分かっている。どういう事だ?勝ったのも覚えていなければ、負けた事も覚えていない筈なのに。彼女の中では、戦に勝った事になっている。朧火。どう考える」

 朧火は、紙に『不知』と書いて彼に見せた。

「そうか、仕方ないか、取り敢えず様子を見よう。何も分からなければ、動きようが無い」

 

「なあ、葵。何が在ったのだ?戦の時に、勝利した事しか覚えていないし、体中が痛いし、見塗れだし・・・」

 葵は何も話さない。葵は自分が見たことを否定しようとしていた。

「怪我の手当てはして置きましたが、血を流したら、傷口が開かないように、また手当てをしますので、痛いかもしれませんが、我慢してください」

「むっ、私はそんなにやわじゃない。この程度の傷痛くも痒くも無いわ。・・・其れより、私のせいで皆に心配を掛けてしまった。すまない。私は、もっと強くなりたい」

「はい、強くなれますよ。まだまだ、若いのですから」

 葵は笑いながら彼女の背中を流してあげた。痛みを我慢している所がまた、可愛らしく、愛らしく、子供らしく・・・。然し、大器が備わっている。そうで無ければ、民はこんなに小さく幼い子供に命をあずける訳が無い。

 皆信じているのだ。彼女の成長を・・・。

「こっ、こらっ!葵、何処を見ておる。痛い。」

「あらあら、痛くも痒くも無かったのではないのですか?」

 そう云うとまた彼女は、我慢し始める。

(私は何時もあなたを見守っております)

「む?何か云ったか?」

 いえ、とだけ応えて、葵は、彼女にお湯をかけた。ふみゃー!?という声が浴場に木霊した。

 

 その後数年は、何処からも攻められる事無く。時は流れていった。

 そして、五年が経った。領土は少しだけたが、それ以外は変わりが無い。東とは休戦している。南北は何かを狙ってか仕掛けてこないが、情報は途絶えている。裏で何か怪しい動きをしているらしいが、未だに素性は分からない。

 

「はあっ!」

 かんかんと木がぶつかり合う音がする。戦っているのは、彼女と葵。早朝早くから稽古をしている。然し、

「てえいっ!」

 彼女の木刀が葵の物を弾き飛ばし、首筋へと向けられる。

「お見事です。修羅姫様」

 もう稽古とは云えない。修羅は青いよりも強く、朧火よりも賢く、焔よりも統率力があった。ただ・・・、

「汗を掻いた。背中を流してくれ」

「はい」

「なあ、葵。如何してお前の髪はそんなに綺麗なのだ?」

「姫様も十分綺麗で御座いますよ」

「そ、そうか?」

「はい」

 修羅は恥ずかしそうに、お湯の中で、ぶくぶくと息を吐いている。

 そう、精神は未だ子供のまま。それ以外はすべて素晴らしい成長を見せているのだが、何故かこうなった訳だが・・・。真相は不明。

「修羅様!」

 大声で彼女を呼んだのは焔。

「何だ?騒々しい。後に出来ないか?」

 いや、其れが・・・、と曖昧に話している。

「なんだ?云ってくれ」

「はい、何か修羅様の客だと申すものが来ております。どう致しますか?」

 彼女は、いったい誰だろう?と少し考えて、「分かった。通しておけ。客間に案内しろ。すぐに行く」

 そう云って、彼女は風呂を出た。

 

 客間には、なんかかっこいいぃ、という小奇麗な青年が大人しく座っていた。

「待たせたな。お前、ここらでは見ない顔だな。率直に云う。誰だ?」

 すると彼は、すっと立ち上がり、

「修羅姫!」

と云って、いきなり姫に抱きついてきた。

「なななななぁあ?」

 修羅は顔を真っ赤にしながらも、抵抗しない。というより、免疫が全く無く。どうすればいいのか分からないのだ。

「修羅姫様!」

 葵が咄嗟に彼を引き剥がす。そして、ずるずると牢の中へ・・・。

「落ち着いたか?」

 と葵が云う。

「ああ、先程はすまなかった。あまりに可愛かったものでつい」

 修羅は、葵の後ろに隠れている。顔は未だ真っ赤だ。

「おおおおおぬしっ。何をするのだ!」

 彼女は、呂律が廻らなく、完全に取り乱している。

「ははは、すまないすまない。そんなに怯えないでくれ。あと、此処から出して欲しいな」

「なななな何を云う!ふ、ふざけるにゃ」

「あっはっは、面白い姫様だ」

「笑う出ない!お前は誰じゃ!」

「ああ、すまない。未だ名乗っていなかったな。俺は、東の長『琥露奈』だ。さて、いきなりだが、俺と結婚してくれ」

 ボンッと彼女の思考回路が焼き切れた。そして、きゅうと其の場に倒れてしまった。

「姫様!大丈夫で御座いますか?」

 葵もおろおろしている。

「あなた、其処で待っていてください。すぐ戻りますから」

「あっ、ちょっと、お~い。行っちゃったよ」

 葵は、修羅を抱きかかえて、もうあんなに遠くへ、そして、琥露奈は其の場に取り残された。ひゅ~、と風が吹いた気がした。

 

「姫?大丈夫ですか?」

「大丈夫ではない!あんなことを言われたのは・・・初めてだ」

 未だ顔が赤い。隣で朧火がいつのまにか煽いでいる。

「姫様。あの男はどう致しますか?」

 焔が問う。

「だっ、だいぶ落ち着いた・・・から、連れてきてくれ。牢は・・・寒いだろう?」

 言葉が明らかに動揺している。三人も、姫がそう云うのなら、という様子で彼を連れ出した。

 琥露奈が修羅の所へ連れてこられた。修羅はそっぽを向いている。頬を紅に染めて。

「おお、修羅!また会えたなー」

と、琥露奈がまた襲い掛かって来る。三人の制止をひらひらとかわして。

 しかし、

「ええい!寄るなあっ!」

 素晴らしい打撃音。彼は数メートルも飛んだ。が、

「えらい歓迎だな」

平気な様子だ。

「お前、琥露奈とか云っていたな。其処の三人をすり抜け、私の攻撃にさえ受身を取ってかわすとは、相当の腕前だな」

 彼女は、思った事を其のまま述べた。つもりだったが、

「じゃあ、惚れ直したって事で、契りを」

 彼にとっては、婚約が成立したのと同じ。

「まっ、待て!心の準備が・・・」

 修羅もその気のようである。しかし、其の瞬間、其の空気が変わった。

「さて、本題に入ろうか。俺は、戦いをしたくない。修羅、お前と同じでな。然し、戦無くしてこの乱世の統一は不可能」

 彼女の顔からも恥じらいは消えている。

「それで、如何したいのだ?此処で戦うのか?私は構わないが」

 修羅は戦闘態勢に入っている。

「違う・・・」

 然し、彼の言葉に其れは崩れた。此処にいる者は皆、不思議に思っている。

「そこでだ。この国と協力しようというわけだ。国の長が来た方が説得力あるだろ?」

 一同は頷き、

「お前の云いたい事は分かった。私も出来るだけ戦は避けたい。協力しよう」

 と云うと、彼はまた一変し、

「じゃあ、結婚しよう。式はいつ行う?今かそうか、分かった。では誓いの証を・・・」

 そう云うと、彼は徐に修羅の頬に口付けをした。

「な、な、な・・・」

 又もや、きゅう、と倒れてしまいそうな彼女を抱きしめ、彼は、三人に云った。

「じゃ、そう云う事で。よろしく」

 何故彼等は姫を助けないのか?と思う人もいるかもしれないが、彼等には其れなりの考えがあるのだろう。其れとも、姫に、呆れているのか。まあ、其れは無いだろう。きっと、余りにいきなりも出来事で、考えが付いていかなかったのだろう。朧火は・・・何かを分かっているようだったが、やはり口に出す事は無かった。

 

「むう?此処は?」

 彼女が気付いたとき、彼女は柔らかいものに包まれていた。其処は彼女の寝室だった。

「おお、やっと起きたか。そんなに驚く事は無いと思うのだが・・・」

 彼女は一瞬動きを止め、そして、城全体に聞こえるような声で叫んだ。

「何でお前が此処に居る?私に何をした?吐け!吐かぬか!」

 目にも止まらぬ速さで其の部屋の隅まで行って、常備の小刀を片手に男に問う。

「何をって、あんなこと?」

 彼女の顔は蒸気が上るほど赤かった。そして、何処からか太刀を取り出して彼に襲い掛かって来る。

「まっ、ちょっ、待て。冗談だ」

 しかし、彼女は完全に我を失っている。

「仕方ない・・・」

と云って彼は、修羅の剣戟を掏りぬけて、またも、彼女に口付けをした。

「ななななななななな・・・」

 やはり、赤くなり紅くなった。そして、力なくその場に座りこんでしまった。

「此れ効くな~」

「お前また」

 彼は抗う力の無い修羅を軽々と持ち、柔らかい布団に寝かせた。

「さて、聞いてくれ。俺は交渉に来たんだ。東の統一について、な」

 彼女のすぐに目の色を変える。

「お前は、この国に統一されるのではなかったのか?交渉とは何の交渉だ?」

 琥露奈は、ゆっくりと口を開いた。

「実は条件があったんだな。・・・其の条件は、修羅・・・お前と結婚する事だ」

「ほう、だからあんなに接近してきたのか」

「まあ、そういうことだ。しかも、七日以内に結ばないと戦になる。あの老い耄れは、俺の結婚を快く思っていないんだ。俺は、戦をしたくない。なあ、もう一度云う。俺と結婚してくれ」

 彼は真剣だった。嘘偽りの無い誠実な顔。彼女はしばらく考えた末、

「焔、朧火、葵!」

と、三人を呼んだ。

「・・・ということだ。お前たちは如何思う?私としては・・・構わない・・・のだが」

 恥ずかしそうに云う修羅。彼女の気持ちを両方から察してか、焔が口に出した。

「戦事にならないのなら、其れが一番でございます。祝言はいつ挙げますか?」

「明日で、よろしく」

 琥露奈は即とうする。もう其処には、先程までの誠実な姿は居なかった。

「なっ!?」

 驚いたが、身動きが出来ない彼女は、辛うじて動く腕でじたばたした。

「分かりました。町の者にも知らせなければ、祝言は昼から、其れまでに支度をしましょう」

「お前もか!葵」

 彼女の叫びは空しく響いていった。

 

 次の日、式は大々的に行われた。

「本当にするのは、こんな大勢の前で」

「仕方ないだろう?こうでもしなければ、老いぼれどもが信じてくれぬ」

「・・・仕方ない・・・か」

 綺麗な花嫁姿の修羅は、浮かない顔をしていた。対する琥露奈は、いつも通り。

「ほら、出るぞ。笑って」

「あ、ああ・・・」

 そして、二人は城を出た。

 途端に湧き上がる衆の歓声。其の中、二人は誓いを交わした。

 遠くで数人の黒装束が、東へ向かっていった。

「まったく。あんなに大勢の前で・・・恥かしい。何であんなに長いのだ!?」

「いいじゃないか。今日から晴れて夫婦だ。仲良くやっていこうな」

「?」

「おいおい、惚けてるな?俺は本気だぜ?こんな綺麗な嫁を持てて幸せだ」

「んな!?見せかけだけじゃ?」

「ちっちっち。俺は本気。領主は貴女でいいから、よろしくな」

 言葉が詰まってしまった彼女に又もや、誓いを交わす。然し彼女は微動だにしない。琥露奈は面白がって頬っぺたをぷにぷにしたり、鼻をつんつんしたりしている。然し彼女は動かない。ショックだったのか、はたまた大感激だったのか。其れは定かでは無きにしも非ず。寧ろ前者である。飽きたのか、琥露奈は彼女を持って城の奥に行った。

 

 次の日、東から使者が来た。どうやら本当に結婚したのか確認に来たらしい。あまりに率直な質問に表情が崩れそうになるのを辛うじて止め、

「不躾な。昨日大々的に発表したであろう。今更そのような事は聞かぬものだ」

 とだけ云った。彼等が帰った後、やはり恥ずかしい様子の修羅であった。

「ふぁあ~。清々しい朝だな。修羅お目覚めの口付けを」

 思い切り何かを何か槌のような物で打つ音がした。琥露奈は其の儘昼まで寝ていた。

「おお、起きたか?寝相が悪いな。あそこから此処まで来るなんて。それにもう昼だ。幾らなんでも寝過ぎではないのか?」

 と、からかったが、

「う~む、昨日からの記憶が無いんだが。修羅、何かしたか?」

「いや。何も」

 感の鋭さは流石と言った所だろうか。危なかったと思いつつ、笑いをこらえるのが必死。

「其れより、南北統一の作戦をたてようか」

 彼は、楽観的に応えて、他の三人と共に城の一室へと向かった。クスッ、という彼女の微笑は彼に届いたのだろうか。

 

 

PR
Comment
Name
Title
Mail
URL
Color
Comment
pass: emoji:Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Trackback
この記事のトラックバックURL 
[8] [7] [6] [5] [4] [3] [2] [1
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フリーエリア
最新CM
最新TB
プロフィール
HN:
尚軽
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
アーカイブ
最古記事
(02/03)
(02/03)
(02/03)
(02/05)
(02/05)

Powered by Ninja.blog * TemplateDesign by TMP

忍者ブログ[PR]