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2007 
February 05

第二話「ドレスド・テラー」

 

「ざけんなぁーーー!」

 百ホーンを軽く超えるであろう怒号が、よらず部の部室にとどろいた。

 肩を怒らせ、荒い息をつきながら久和は目の前の二人、大知と空輔を睨み付けた。

「まあまあ、そう言わずに協力してくれよ。今回は賞金の額も上がったんだ。」

「そうそう、お前が出れば簡単だって。」

 のほほんと大知は協力を求め、空輔はさも愉快そうに笑いながら、片手に持った一枚のプリントを久和の前に突き出した。

 そのプリントには、優勝部活には特別部費の給付の要項と――――――

「何で俺が女装するんだ――!」

 『今年も開催、男女混合ミスコン!』

の文字がでかでかと記されていた。

 

        ⇔

 

 ことの起こりは、この学校が毎年行っている『男女混合ミスコン』というとんでも行事である。

 各部活から代表として一人参加し、全校生徒の投票によりその年の優勝部活が決められる。

 もちろん男子は女装することになるため、男子の参加者にはハンデとして最初からいくらかの票を与えられることになっている。

 上位の部活は賞金として特別に部費が得られるため、どの部活も必死で美男美女を探すのである。

 こんなふざけた行事だが、ある意味では体育祭以上に盛り上がる人気行事の一つである。

 

        ⇔

 

「だからって何で俺がやるんだよ。歌織にやらせりゃいいだろうが!」

 怒りで真っ赤になって抗議するが、この二人に言い争いで勝てた事は一度も無い。

「歌織は去年上位入賞したから今年は出場できない。」

「つーわけで、長髪女顔のお前が必然的に選ばれるわけだ。」

 ヒヒヒッと腹の立つ笑みを浮かべる空輔を久和は本気で張り倒そうと思ったが、それを遮りおもむろに大知が交換条件を提示してきた。

「納得いかないようなら、駅前のケーキでもおごるよ。」

 その言葉に久和の眉がぴくりと動いた。

「どれだけだ?」

「新作全部。」

「……」

 脳内で女装とケーキが久和の損得計算の公式に代入され、そこで弾き出された答えは――

「分かったよ、出てやるよ、畜生。」

 はめられたと理解しつつも、やはりケーキの魅力には負けてしまう。

 予想通りといった表情で笑う二人を見て少し後悔した。

 「よーし、後は任せろ。しっかりとコーディネートしてやるからな。」

 新しい悪戯を思いついたような空輔を見て久和は早くも悪寒を感じた。

 彼がそういう風に笑うときは必ずろくでもないことが起こるからだ。

「いや…あんまりはりきるなよ。」

 一抹の不安を抱えながら、久和は部室を後にした。

 

        ⇔

 

「どうだった?あいつは?」

久和が部室を出たしばらく後、歌織が息を弾ませて戻ってきた。

「ああ、快く(・・)引き受けてくれた。」

 朗らかな笑みで大知が応えると、歌織もつられて笑った。

「そっか、じゃあ次は服選びね。」

「服って…セーラーとかか?」

「ゴスじゃねぇの?」

「メイドでしょ?」

「……」 

本人の意向を完全に無視した服装座談会は夕方まで延々と続いた。

 

        ⇔

 

そして当日

「こんな格好で出るのかよ!」

「あたりまえでしょ、私達が苦労して選んだんだから。」

 驚愕の声を上げる久和を押え込み、歌織はてきぱきと着付けをしていく。

 久和に着せられているのは、誰がどう見ても女性用の着物だった。絶対着る事のない服を着せられ、彼は落ち着かなさそうに首を回した。

「ちょっと、動かないでよ。」

「こんな服着て落ち着けるか!大体俺が出場すること自体おかしいんだ。」

「いいじゃん、久和は美人なんだし。」

 そう言われて久和はがっくりと肩をすくめた。好きな娘に美人だといわれて喜ぶ男なんてナルシストくらいだ。

 大きな溜息をこぼす彼を知ってか知らずか、歌織は思い出したように言った。

「そうそう、舞台に出たら笑えって。」

「は?」

「空輔が言ってたの、そうすれば大抵のやつは堕ちるって。」

「?」

 何を言ってるのか理解できず首を傾げる久和に、歌織は楽しそうに笑った。

 

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